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暑い暑い、夏の日。 地面にしゃがんで、ただただ蟻の行列を潰す少年。 その酷く暗い虚ろな眼をした少年が、お兄様、貴方ということはすぐにわかりました。 アスファルトの道路を横切るようにして、一心不乱に歩き続ける蟻の行列。 それを、お兄様は無表情のままただ淡々と、指で押しつぶしておりましたね。 年が6つも離れたお兄様。 幼かった私は、初めて見るお兄様のそんな姿に、ただただひたすら恐怖を感じて。 壁を背に、お兄様から隠れたのです。 背にした壁の、なんと冷たかった事か。 弾む呼吸の、なんと苦しかった事か。 額を伝う汗で前髪が濡れ、鬱陶しく顔に張り付きました。 首筋を、背筋を、這うように滴り落ちる汗は、ただ私の恐怖心を煽り、私は思わずその場から逃げ出したのです。 その時に、私は一人の少女にぶつかりました。 長い黒髪と、理知的な瞳が印象的な、肌の白い美しい少女でした。 私はその人に謝ることも出来ず、無我夢中でお兄様から逃げたのです。 私の大好きな優しい優しいお兄様。 虫も殺さなかった優しいお兄様。 そのお兄様の変貌ぶりが、その時の私には、恐怖以外の何物でもなかったのです。 .
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