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月がぽっかりと浮かぶある日の夜。
風は春の匂いを運び、木々は優しく揺れている。
二つの影と、五つの影。
二つの影には先程コンビニで買ったアイスが入っている袋。
五つの影にはバットと鉄パイプ。
何かがおかしい事に気付くには、十分過ぎるのかもしれない。
淡く切ない春の夜。
微睡む事さえ愛しい空の元に、聞こえてくるのは……。
「ねえねえ、そこのお兄ちゃん達さ、僕達お小遣いがないからちょっとちょうだいよ」
「そうそう、俺達お母さんからお小遣い貰えなくてさあ」
折角の宵の晩に、似合わぬ声が響く。
「あらやだ透君、あたし達カツアゲにあってるみたいよ~」
「どうしましょう楓君、あたし怖くて泣きそうだわ~」
上記の言葉を棒読みで吐き捨てるのは、このストーリーの主人公である。
「あのさあ、ふざけるのも大概にしてくんねえかなあ?
あんまし俺達をこけにすると、ちょお~っと痛い目みる事になんよ?」
「それはそれは申し訳あ~りませ~ん。
あたくし、バカだから解りませんの~」
鉄パイプを持った奴が脅しにかかってみるが、それは何の意味も持たなかったらしい。
「てめっ、ふざけんじゃねえよっ」
怒りを露にしたやや背が低めな男が楓に右ストレートを食らわそうとした。
が、あっさりと避けてみぞおちに膝蹴りを食らわす楓。
「あのね、俺達これから家に帰って、『春休みだよドラ○もん、春の二時間スペシャル』を見たいの。
喧嘩したいなら付き合ってやるから、さっさとかかっておいで」
一見穏やかそうに聞こえる透の言葉だが、嫌味がたっぷり加えられているのが解る。
「なめんじゃねえっ」
鉄パイプの男の言葉が合図だったのか、のたうち回る一人を除いて四人一斉に攻撃開始。
―三分後―
「本当に申し訳ありませんでした!」
「俺達がバカでした!」
「お詫びにアイスを奢らせて下さい!」
「身の程知らずですんませんでした!」
「二度とこの様な真似は致しません!」
結局ボコボコにされた五人は土下座をしながら、二人に謝る羽目になったのだった。
「ああ、うぜっ(ボソッ)
とにかく、この溶けたアイスくれてやるからお前らうせろ」
「おい透、急がないとドラ○もん始まっちゃう…」
「ヤバい、早く帰るぞ」
そんな二人を呆然としながら見つめるおバカな五人達は、暫くその場から動けずにいた…。
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