第零話:プロローグ

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「今年は大雪だなぁ‥」 除雪され、壁の様に積もった雪を蹴飛ばし、帽子を被った女性は白い息を吐いた。 背負った大量の荷物の影から見える尻尾が雪に触れる度、『ビクッ!』と跳ね上がる。 「…と、こんな事してる場合じゃ無い。只でさえ遅刻してるのに!」 女性、メル=カーメルは手にした花を両手に抱え、雪で真っ白な坂を走って登った。 ------------------------------ 「さ、寒いですね…」 雪と殆ど同じ色の髪をした青年は、着ていたベストのフードを被り直し、両手を擦り合わせて息を吹き掛ける。 一方、隣に立っていた男性は長髪を掻き上げ、平然としコートを脱いでいた。 「精進が足りんな…。暫く会わない内に、平和ボケしたか?…」 「クロスさんの格好は、見ているだけで寒いです‥」 青年シェル=マージンは鼻水を啜り、男性クロス=ディーンに呆れを含んだ流し目を向ける。 クロスは苦笑して、コートを羽織った。 「お~い!。シェル、クロスさん!」 二人は背後から聴こえる懐かしい声に、顔を見合わせ、振り返った。 「メルさん、お久しぶりです!」 「久しぶり!。二人とも、元気だった?」 「ふっ…。見ての通りだ…」 クロスは腕を組んで、軽く笑う。 その顔は、メルが知る昔の姿に比べて、感情が表に出ている。 メルにそれを指摘され、クロスは少し照れて咳払いをした。 「‥さてと」 メルは二人の間を通り、慰霊碑と、その隣の小さい墓標に、それぞれ花を供えて祈りを捧げる。
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