第零話:プロローグ

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同時刻 『旧・娯楽の町:町外れ』 「ふぅ…」 殺風景な場所に一つだけ設置されたベンチに座るなり、女性は俯きながら短く息を吐いた。 空は、夕焼けの光と夜の薄暗らさ混じって幻想的な色をし、星が見え始めている。 「‥はぁー…」 女性はもう一度、今度は長めに息を吐く。 そして髪を押さえていた髪留めを片手で全て外し、ポケットにしまった。 セミロングの赤毛が垂れ下がり、風で揺れている。 (向こうは雪か…) 椅子に凭れ掛かり、女性は空を見上げた。 やはり冬なだけあり、息は吐く度に白くなる。 「………」 女性は空気に薄れていく息を無言で眺めた後、徐(オモムロ)に胸元に手を入れて何かを取り出す。 それは、中にリングと小石が入った小瓶だった。 女性はそれ片手で掴み、目を閉じる。 「‥ごめん…。私って薄情者よね…。‥でも、今更会いになんか行けないよ…」 女性、リルル=オーガンは泣き声に似た小さい声で、悔しそうに呟く。 しかし、その目に涙は無い。 世界は平和になった。 しかし、彼女の心は悲しみで淀み続けていた。 『新・世界を守護する者達』 著者:335遼一
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