序章-暗《惨》殺者-

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男は恐怖していた。近頃自分へ強大なくらいの殺意を向けてくる、『何か』の存在に。 どこの誰なのか、それ以前に人形(ひとがた)なのか異形(いぎょう)なのかすらも分からない何かに、ただただ怯えることしか出来なかった。 何故こんなことになっているのだろう? 一体自分は何に狙われているのだろう? 男が身体を抱く自身の腕の力を僅かに強めた、刹那。 暗闇の中から、静かに扉が開く音と共に、みしり、という足音が聞こえて来た。 足音は相変わらずみしり、みしりと鳴らせながら、男の方へと徐々に近付いて行く。 反射的――否、殆ど本能的に、男は身を硬直させた。 脳内の神経という神経から、身体中の神経という神経から、危険信号が発信される。 足音の主から発せられている殺意は、男が感じ取っていた『何か』の発している『ソレ』と、全く同一のものだった。 そして、ぴたりと、男の目前で足音は止まる。 足音の正体を見て、男は途端に心身の緊張を解いた。 「…………何だ、×××か……。どうしたんだ?」
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