春(拓の章)

1/4
前へ
/91ページ
次へ

春(拓の章)

俺「悪いな。命日に来れなくて。自分の中のいろんな物を整理してから来ようと思っててさ。時間かかっちまった」 俺は綺麗に長方形に切り取られた灰色の石の前で手を合わせた。 俺「まぁ整理ってもあんま出来てねぇんだけどな。だけどとりあえず卒業式終わったから来ようと思ってな。へへっ」 今年の春は暖かい。 大志が眠っているこの場所の雪も綺麗に無くなっていた。 俺「そうだ。忘れるとこだった」 俺は学ランの胸ポケットから煙草を取り出した。 大志が吸っていた銘柄。 まだ開いていない箱を開け、1本取り出し、火をつけて墓の前に置いた。 そしてもう1本取り出して口にくわえ、さっき置いた煙草のとなりに箱を置いた。 俺は自分がくわえた煙草に火をつけ、ゆっくりと煙を肺に入れゆっくりと吐いた。 少し強い風が吹き、煙を一瞬にして消し去った。
/91ページ

最初のコメントを投稿しよう!

20959人が本棚に入れています
本棚に追加