“道”

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「ちゃんと言えるじゃないか…嫌って。」 一瞬俺の中で時が止まった。 何故“助けて”なんて言葉が出てきたのか。 でも心弥の言葉に救われたような気がして… 「辛い思いをしたんだね…ごめんよ。君を試したんだ。」 試した…? 「コウに比べて君は全然嫌って言わないから…本当に嫌じゃないのか、自分の気持ちに嘘をついてるのか。どっちなんだろうって思ってね。」 思えばあの日以来そんなの意識したことなかった。 自分では無意識だったのに他人の心弥に見抜かれるなんて… 情けない。 「君のこんな姿…初めて見た。よほど恐ろしい目にあったんだろう。」 「………。」 「でも大丈夫。もう大丈夫。」 さっきの心弥の言葉はとても重くのしかかったのに対し、今の心弥の言葉はとても心を軽くしてくれるような感じがして… こういうのを何と言うのだろうか… 「嫌なら嫌って言っていいんだよ。怖いなら助けてって言っていいんだよ。助けを求めることは恥ずかしいことじゃないんだから。」 そう言って心弥は俺を優しく抱きしめた。 「何だよ…それ…」 俺は心まで包まれるような感覚にとらわれ、やっと気づいた。 俺はコウの幸せを願いながら… 自分が幸せになることを押し殺していたんだ 。
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