“道”

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「さっきのは嘘。いや、逆かな…君は人のことばかりで自分を見ていない。もっと自分を出していいんだよ。」 この人は本当に… 「コウは早く君にも幸せになってほしいって願ってる。だから部活の楽しさ、そしてその奥にある“仲間”ができた喜びを何より君に伝えたかったんだ。」 知ってた。 コウがそうやってさり気なく促してくれていたこと。 気づいてた。 「でも、なのに俺は…」 自分が幸せになったら、またコウが不幸になるんじゃないか… そう恐れていた。 だから… 「優しい子だね…」 そう言って心弥はまた俺を優しく包み込んだ。 この日をきっかけに、俺は心弥に多大な信頼を寄せることになった。 そして─… 「あの…先日はすいませんでした。俺、やっぱり剣道部に入りたいです。」 全部員が呆気にとられたような感じだった。 でも… 「待ってたよ…」 そう言って渡されたのは、 既に“佐久間”と名が刻んであった胴着だった。 ─… 強くなりたいから。 それだけ。 ただそれだけ? 「それだけじゃないや。」 「ゴウくん?」 「俺は剣道部に入りたくて入ったんだ。」 当たり前のことを口にするゴウくん。 私はその言葉の裏に隠された思いなんて知らずに… 「どうしちゃったのゴウくん?」 と、冗談混じりで返した。 「渚先輩。」 「はい?」 「絶対部活入った方がいい。」 どういう意味でそんな言葉を発したのか分からなかった。 ただゴウくんの瞳はまっすぐ私をとらえていた。
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