第一章

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「ヒッ…」 思わず出た情けない声。 腰が抜けてその場に座り込んだ。 「どう…して、」 生きていられるんだ? ガキは笑っている。 俺を馬鹿にするような声色で。 「常識に囚われた愚か者だね。この世界に常識は効かないよ?信じるべきは、」 ガキの顔が緑色の何かに覆われた。 うねうね動く其は俺に向かってくる。 「自分とお金だけ。」 「助けっ!」 俺は逃げようとした。 踵を返し、ドアに向かって走り出した。 が、それよりも早く緑色の触手が俺の足首に絡み付く。 「うっあぁああぁ!」 絡み付く触手は熱を帯びて肉を焼いていく。 不快な匂いが鼻をついた。 ズルズルと引きずられて、金色の獅子の前に投げ出された。 コイツは俺のペットであり奴隷だ。 コイツは俺を裏切らない。 「おいっ!この触手を引き千切れ!俺を助けろ!」 ガキの血で口の回りを紅く染めた獅子が此方を向いた。 何故か背筋を冷たい汗が滑った。 「お、い?」 獅子が生暖かい息を吐く。 俺の顔に当たる距離で。 「馬鹿だね。さっき言ったじゃないか。」 獅子は大きく口を開けた。 ぐしゃっ─… 「信じるべきは、自分とお金だけだって。」 金色の獅子の背に乗った無傷の黒い少年は言った。 部屋に濃い血の匂いが充満していった。 金色の獅子がゆっくり床に倒れていった。 そのすがたが少年に戻るのを確認して、黒い少年はその体を抱き抱える。 「ミッション、コンプリート。ファンダズマ、帰ろう。」 黒いコートを翻して黒い少年は部屋を後にした。
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