第三章

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月が雲に隠れた。 冷たい風が木々を揺らした。 重々しい雰囲気が屋敷全体を包んだ。 「…以上が、僕の調べたネロの事だよ。」 「まぁ…。」 「う゛ぉ゛ぉい…」 「王子ビックリ…。」 ボスへの報告の後、幹部組へネロの事を話した。 過去の事。 生い立ち、能力、ファミリー、そして…性処理機だった事。 皆の視線は必然的にネロに集まった。 ルッスーリアの隣に座っていたネロは俯き、黒のレースの沢山付いたスカートの裾を握っている。 「…僕は、」 震えた声で話し出した。 拳に水滴が落ちたのが確認できた。 …泣いてる。 ツキン、と僕の体内で何かが動いた気がした。 「…僕は、マーモン様が言った通り、モルモット…でした。」 「あの実験室で、何度も知らない男の人を受け入れて、何度も知らない男の人を受け止めて。 泣いて、 叫んで、 壊されて、 絶望、して。 …でもやっと、僕は、生きてるんだって実感、出来る場所を見つけて。 ここで、生きたいっ…。 お願い、します…。 僕を、捨てないで! ここに居させて、くださッ…。」 必死に言葉を繋いで 懸命に気持ちを表して 生きたい、と 涙を流す。 「…当たり前だよ。」 君を捨てる訳ない。 「君はここに居ればいい。」 知らない間に君は僕達の心に入ってる。 「君の居場所はここにあるんだ。」 もう、手放せなくなっている。 「ここで生きなよ。皆いるからさ。」 ネロの顔が上がった。 涙でグチャグチャの顔には満面の笑みがあった。 「…ありがとう、マー様。」 無意識の内に頬が緩んだ。 この感情は、何なんだろう。 凄く、暖かい。
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