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「睦言だとは思わないんだ?」
解っていながら聞いてしまうのは、やっぱり後悔してるから。
「残念ながら、その可能性はゼロだ。お前以外の奴が口にすれば、それで済ませたが」
「相変わらずだね」
「私は、智紀以外に興味がないんだ。たとえそれが憎まれ口だとしても、智紀だから許せる」
決して甘い口調ではない。
なのに、俺を抱きしめる腕と同じように優しく感じるのは何故?
「愛しているよ、智紀」
その言葉は、まるで毒のように俺の身体を侵食し、媚薬のように酔わせる。
だけど、この言葉に流されるわけにはいかない。
「雅隆さん、仕事は?」
今が何時なのか、完全に太陽を遮っているカーテンのせいで分からないが、呑気にしていられる時間じゃないはず。
「私は今日から二週間の休暇だ。お前が見つかったからな」
「社長がそんなのでいいのかよ?」
「部下が優秀なんでな、指示は全て電話と、パソコンで事は足りる」
「悪いけど、俺には仕事があるから帰る」
付き合ってなんかいられない。
二週間でも一ヶ月でも、好きなだけ休めばいいんだ。
「あの店なら、昨日の段階で解雇されたぞ」
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