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解雇って、まさか…。
「私が智紀を野放しにするはずがないだろう?一ヶ月もあれば居場所は分かる。あのオーナーには、私が迎えに行くまでの間、預かってもらっただけだ」
やっぱり、そうだったんだ。
「一年もの間、自由にさせたんだ。私のところに帰って来たらどうだ?」
俺の心を支配したのは、怒りでも憎しみでもなく、絶望だった。
俺が逃げて、店に顔を出せば、マスターに迷惑をかけてしまう。
今度こそ、雅隆さんの隙を突いて、何処か遠くに逃げるしかない。
「逃げようと考えているなら無駄だ」
「うっ…」
考えていた事を指摘され、俺は言葉を失ってしまった。
「何度同じ事を言わせれば気が済むんだ?一度は許したが、私は寛容な人間ではないからな、二度目はない。私の隙を窺うだけ無駄な事だ」
いつの間にか体勢が入れ替わり、雅隆さんに組み敷かれる。
「言ったはずだぞ、そんな瞳をしても逆効果だと」
与えられた口づけは、これ以上にないほど優しい。
「このまま、襲ってもいいが?」
「無理……」
昨夜あれだけ啼かされたのだから、これ以上されれば壊れてしまいそうだ。
断れば、あっさりと雅隆さんは離れていく。
どうやら、襲われる事態だけは防げたようだ。
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