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「コレが取りたかったんだろう?」 本棚の高い位置にある本を眺めていれば、いきなり手が伸びてきて、俺の目当ての本が引き抜かれる。 そして、そんな言葉と共に、俺の手に本が乗せられた。 「間違えたか?」 いきなりの事に驚いていれば、再び声が掛けられる。 「いえ、これで合っています。助かりました」 慌てて男の方を向き、俺は深々と頭を下げた。 「気にしなくていい。それよりも、買ってきたらどうだ?」 「はい。本当に有難うございました」 俺は本を抱えてレジに向かった。 だけど、世の中には良い人もいるんだな。 正直、あのまま持っていかれたら、俺はまた数々の本屋を探さなければならなかったところだ。 早く帰って読みたいな。 会計を済ませ、店員さんが袋に入れてくれるのを、待つのももどかしい。 ようやく、俺の手元に本が戻ってくる。 差し出された袋を受け取ろうとした刹那、横から伸びてきた手に、袋を奪われてしまった。 何で…? 奪った本人を見れば、ソイツはさっき俺に本を取ってくれた人。 顔は見なかったけど、この高級そうなスーツと、左腕に填められている時計は間違いない。 「返して下さい」
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