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どう答えればいいのだろう?
「お久しぶりです」
考えるまでもなかった。
口から自然に零れた言葉。
だけどそれっきり会話は続かない。
気まずい沈黙。
周りの客の話声と、スピーカーから流れてくる聞き慣れたジャズ。
「バーテンの格好も似合うね」
雅隆さんは客で、俺はバーテンダー。
そして、今は仕事中だ。
雅隆さんが此処に来たのは、ただの偶然。
決して俺を探しに来た訳じゃない。
冷静さを取り戻すように自分に、そう言い聞かせる。
なのに……。
「あれからかなり探したんだよ」
その一言で、俺の希望的予測を見事に打ち砕いてくれた。
やっぱり、逃げる事なんて無理だったんだ…。
雅隆さんなら、俺一人を見つけ出すなんて簡単な事。
分かっていたのにな。
たった1年だけの自由。
そして、呆気ない幕切れ。
俺はもう逃げられない…。
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