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「じゃあ、仕方ないね。チェックしてくれる?」
雅隆さんがあっさり引いた事で、俺はほっとしたのと同時に一抹の寂しさを感じた。
会計を済ませ、お釣りを手渡そうとした時だった。
「私が見つけ出した以上、二度と逃がしはしない。覚悟しておくんだな」
低く押し殺した声は、当然、俺にしか聞こえていない。
さっきまでの口調とは違う。
だけど、これが雅隆さんの普段の話し方。
「また来る」
あまりにも衝撃的なセリフに、俺は「ありがとうございました」と言う事さえ忘れてしまっていた。
「矢城、顔色が悪いみたいだけど大丈夫か?」
雅隆さんが出て行った扉を、ぼんやり見つめていれば、凱さんから声をかけられた。
「平気です」
体調が悪いわけじゃない。
ただ、いきなりやって来た雅隆さんに驚いただけ。
それに、俺の居場所はこの店にしかない。
逃げる事なんて不可能だ。
雅隆さんが見つけ出した以上、俺はこの先、何処に逃げても簡単に見つけられてしまうから。
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