5/19
前へ
/41ページ
次へ
「じゃあ、仕方ないね。チェックしてくれる?」 雅隆さんがあっさり引いた事で、俺はほっとしたのと同時に一抹の寂しさを感じた。 会計を済ませ、お釣りを手渡そうとした時だった。 「私が見つけ出した以上、二度と逃がしはしない。覚悟しておくんだな」 低く押し殺した声は、当然、俺にしか聞こえていない。 さっきまでの口調とは違う。 だけど、これが雅隆さんの普段の話し方。 「また来る」 あまりにも衝撃的なセリフに、俺は「ありがとうございました」と言う事さえ忘れてしまっていた。 「矢城、顔色が悪いみたいだけど大丈夫か?」 雅隆さんが出て行った扉を、ぼんやり見つめていれば、凱さんから声をかけられた。 「平気です」 体調が悪いわけじゃない。 ただ、いきなりやって来た雅隆さんに驚いただけ。 それに、俺の居場所はこの店にしかない。 逃げる事なんて不可能だ。 雅隆さんが見つけ出した以上、俺はこの先、何処に逃げても簡単に見つけられてしまうから。
/41ページ

最初のコメントを投稿しよう!

659人が本棚に入れています
本棚に追加