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それに、今の俺には逃げるだけの気力もない。 「今日は早退しろ」 「そんな事したら、凱さん一人になりますよ。俺のせいで迷惑かけたくないです」 必死で喰いつくけど、凱さんは聞き届けてはくれなかった。 「そんな顔をしていると、客が心配する。それでなくとも、店休以外に休んでいないんだからな」 引き下がるしかないかな。 確かに今の状態じゃ、お客さんにちゃんと笑えるかどうか分からない。 「じゃあ、お言葉に甘えさせてもらいます」 凱さんに頭をさげ、厨房でエプロンを外し、俺は裏口から店を出た。 店から俺の住むアパートまでは、歩いて5分の距離。 そのアパートは凱さんの所有物件らしく、空いていた部屋を格安で貸してくれている。 自分の部屋まで後少し。 そう安堵したのも束の間。 狭い路地に不似合いな車が、アパートの通路を塞ぐように停車していた。 反射的に逃げようとした俺よりも早く、車から降りてきた人物が足早に近づいてくる。 「言ったはずだ。今度こそ逃がさないと」 確かに聞いた。 だからって、アパートの前で待ち伏せするなんて卑怯だ。
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