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目の前の光景が信じられずにいた――
良く言えば、趣のある家屋。悪く言えば、今にも崩れそうな古さをたたえた僕の家。
その一室に、彼女はいた。
遠慮がちに瞳を伏せ、僕の母――環と向かい合ってコタツに座っている。
その傍らで、環の古くからの友人――吉野さんが僕に視線を注いでいた。僕が高校に行ってる間にいらしたのだろう。
「……どういう状況?」
何とか発した言葉は、このような状況下で発するべき常套句。仕方ないだろ、僕だって突然の出来事に驚いてるんだ。
そんな僕の問い掛けに対し、環は、
「この子、今日からうちで預かるから」
とだけ、一言。
率直かつ簡潔で、実に解りやすい――じゃなくて。
彼女の言葉は、とてもじゃないが、「そーなのかー」と、簡単に納得出来るような内容ではなかった気がした。
「……あ、あの。座らないんですか?」
いたたまれなさそうに座っていた少女が、蚊の鳴きそうな呟く。
言われてみれば、帰って来てからずっと、居間の入り口に突っ立ったままだった。
「ここ、どうぞ」
少女が腰をずらし、自分の横に一人が座れる分のスペースを作る。
せっかくの好意を無碍にするわけにもいかないので、恥ずかしさを感じながらも、僕は彼女の隣に腰掛けた。
「で……何?預かるって?」
腰を落ち着けたところで、環に再度問い掛ける。母はただ頷くだけであった。
ある、晴れた冬の日のことだった。
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