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「この子――千晶ちゃんね。 つい最近、ご両親を事故で亡くしたのよ。 知ってるでしょ?母さんの幼なじみの……」
それなら知ってると、肯定。
環と、ここにいる吉野さんの幼なじみで、うちに何度か遊びに来ていたのを覚えている。
「うん、合ってる。……で、千晶ちゃんの両親も、早くに親御さんを亡くしちゃってるのね。おまけに、親類縁者とも疎遠になってて……まぁ、そんなわけよ」
……いや、さっぱり解らないんだが。もっとちゃんと説明していただきたい。
怪訝そうな顔をする僕の疑問を感じ取ったか、吉野さんが慌てて補足する。
「古い付き合いのあたしらで、千晶ちゃんを預かろうって。うちは旦那に無理って断られたから、環に頼もうと……」
「……確かに、うちは父親が早くに逝きましたし。 家人は僕と母さんの二人ですから、誰にも口出しされずに済みますね」
「なによー。母さんの説明は全然解ってくれなかったくせにー」
話半ばで説明を打ち切る自分が悪い。
「むー……」
ふてくされる環は無視して、千晶と呼ばれる少女に視線を移す。
考えてみれば、母親同士は仲がいいのに、子供同士は今まで面識もなかった。彼女とは初めて顔を合わせるわけだ。
「……な、何ですか?」
千晶が、端正な顔を赤らめる。
肩まで伸ばした艶のある黒髪に、まだあどけない、可愛らしい表情。
環の話だと、16歳――同い年らしい。
かような美少女と一緒に暮らせるだなんて、最高じゃないか。
お隣とお向かいと斜向かいの家の幸せを凝縮しても足りないくらい幸せだ。
断る理由がどこにあろうか。
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