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一つ気がかりなのは、我が家をお暇する際、吉野さんが僕だけに呟いた一言
『気丈に振る舞ってたけど……千晶ちゃん、両親が亡くなったことで心に大きな傷を負ってるの。君なら解るでしょ?』
誰が見ても解る。気づいてるのは、僕と母さんだけだろうけど
『君は千昌ちゃんと同い年で、今日から家族――ぶっちゃけ、兄妹になるんだからね?その辺、気遣ってあげなさいよ』
(言われなくても、解ってる。僕がしっかりしないでどうするって話だ)
環にまとわりつかれて困ったように苦笑している千昌を見つめながら――僕は、何度となく吉野さんの言葉を反芻した
◇ ◇ ◇
深夜――
今夜は早くにベッドに潜り込んだものの、僕はすっかり日付が変わってしまった今でも眠ることが出来ずにいた
「……ふぅ」
自室の床に敷いた布団にくるまりながら、小さく溜息を吐く
「……まだ起きてるんですか?」
ベッドの上から、鈴の鳴るような心地よい声が聞こえる
言わずもがな、千晶のものだ
「何か眠れなくてさ。千昌は?」
「私は……ちょっと緊張しちゃって」
身体を僕の方に向けながら、えへへと笑い、恥ずかしそうに呟く
就寝前――千昌は環の部屋で寝かすべきだと、そこはかとなく反旗を翻してみた
「別にいいじゃない。予備の布団はあんたの部屋にしか置いてないから、移動させるの面倒なの。あそこ客間だったしね」
面倒だと一蹴され
「可愛い女の子と同じ部屋で寝れるのよ?
寧ろ喜んで欲しいものだわ」
……まるで話にならなかった
僕はそんな大胆な思考回路を持つ環に呆れこそすれ、同時に尊敬もしていた
「ふふっ……環さん、面白い方ですね」
面白いもんか。こっちは迷惑してるんだ
「……えと、彰さん……そんなに私と寝たくなかったんですか?」
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