月夜に唄えば -ある男の章-

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戸惑った様なスリナムの顔を見て、ジギィが笑った。 その笑顔に、ハッとし、スリナムがグルッと視線をルネッサに向ける。 「おめでた・・・って・・・こ、子供!!?」 「坊ちゃまったら・・・それ以外に何がありますか」 クナが困った様に笑う。 ルネッサも、少し恥ずかしそうに微笑んだ。 「ほ、ホントに!!?」 駆け寄る。 膝立ちになり、スリナムがルネッサの腹に手を寄せた。 「3ヶ月ですって」 ルネッサは、スリナムの手に自分の手を重ねた。 細く、小さな手の白さに、眩しさを覚える。 ジギィは微笑んだまま、病室を静かに後にした。 ジギィにも覚えがある。 初めて子供を授かったあの瞬間の・・・あの喜び。 悲鳴を上げたくなるほどの喜びと・・・父になる不安。 その合判する思いに、揺れる心。 あの時の、愛する人の笑顔を、ジギィは今でも覚えている。 もう・・・愛する人は死んでしまったけれど・・・それでも、ジギィには、大切な娘がいる。 愛する人が、命懸けで残してくれた娘が。 だからこそ・・・ 守りたいと、そう思う。 この世界に、大切な人が奪われてしまわない様に。 スリナムの笑顔を見て、改めて、そう決意したのだった。 、
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