月夜に唄えば -ある男の章-

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だからだろう。 「はい。ならば・・・お邪魔させていただきます」 気付けばうなずいてしまっていた。 「よかった!!ルネッサも子供達も喜びます」 まるで子供の様な顔をして笑う。 出会ってからずっと変わらない・・・真摯で真っ直ぐな、美しい瞳。 愛しいモノを、真っ直ぐ、愛しいと言える強さを持つ男。 もう青年と呼ばれる程若くはないけれど・・・それでも、穢れを知らない、無垢な瞳だ。 「じゃあ今日は、クナに馳走を作らせなくては」 子供の様にはしゃぐ友人に、ジギィは微笑みを浮かべた。 「ただし・・・今日の分の報告書は出して下さいね、スリナム様」 「あ・・・はは。嫌だなぁ、ジギィさん。もちろんですよ」 目を泳がせながら、頭を掻くスリナムに、ジギィが肩をすくめる。 この研究室の中でだけは、階級は逆転するのだから、面白いものだ。 遺伝子工学の分野では、もはやジギィの右に出る者はいない。 研究員達も、ジギィのその力を認め、尊敬していた。 もちろん・・・スリナムも。 だが一人・・・そんな彼を毛嫌いしている男がいる。 数年前、違う研究室に移った男だ。 その男が移った先は、“人形(マリオ)”と呼ばれる研究室。
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