月夜に唄えば -ある男の章-

16/21
前へ
/21ページ
次へ
だが、だからこそ・・・とても暖かい。 暖かく、優しいこの家で育つ・・・だからきっと、この子供達も、幸せで暖かい人生を送ってくれるに違いない。 そう思わせてくれる優しさが、ここにはあった。 「ジギィさんにも、お嬢さんがいらっしゃるんだよ、ルネッサ」 「まぁ!!それじゃあ、今度いらっしゃる時は、ぜひ娘さんもご一緒に」 娘は、もう成人し、先月の頭に恋仲の男性がいるのだと手紙が来た。 文面から、彼への思いが滲み出していて・・・柄にもなく、憤った。 その男性に娘を取られた事に対してだろうか? それとも・・・娘がそんなに愛している男性に、会って、「娘を頼む」という言葉一つ言ってやれない自分の立場に対してか? もしかしたら・・・そのどちらも、かもしれない。 「娘もきっと喜びます」 私が笑うと、抱いていたレイブン様が小さな声で笑った。 楽しげに私のヒゲをもてあそんでいる。 柔らかく、傷を知らない肌。 きっと、彼も私の娘の様にあっという間に大人になって、この家を巣立つだろう。 いや、それはレイネ様の方か。 レイブン様は、貴族会長の“ケルト”の名を受け継がれるのだ。 見れば見る程、聡明な瞳をしている。 モノを、曇りのない真っ直ぐな瞳で見るのは、両親と一緒だ。
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!

817人が本棚に入れています
本棚に追加