月夜に唄えば -ある男の章-

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貴方の黒髪が好きだ、と・・・そう笑うあの娘が・・・大好きだった。 「ジギィ、今日の実験結果の報告書、頼んでもいいか?」 「はい。わかりました」 “未来”の為に生きる、そんな僕が大好きなのだ・・・と、彼女は笑っていた。 笑いながら・・・泣いていた。 もしかしたら・・・察しのいい彼女の事だ。 本当は気付いていたのかもしれない。 僕が、この仕事を好いていない事を。 当然といえば・・・当然なのかもしれない。 この仕事を愛せないのは。 報告書をまとめながら、ふと、そんな事を思う。 実験?研究? 僕から言わせれば、こんなもの・・・ただの殺戮だ。道徳もなにも、あったもんじゃない。 けれど、口には出せない。 どうせ僕は、身分の低い貧乏貴族の息子。 所長達に刃向かう事なんか出来ない。 まとめ終えた研究報告書を手に、研究室から出た。 廊下を歩く憲兵達が、稀有の目で僕を見ている事に気付く。 僕の顔には・・・小さな傷痕がいくつも刻まれている。 父から受けた暴力を、形のまま存続させようとする様に、いくら時間が経っても・・・消えない傷だ。 ・・・稀有の目で見られるのには、慣れている。 けれど、今日は何故か、特別不快な感情に迫られた。
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