月夜に唄えば -ある男の章-

7/21
前へ
/21ページ
次へ
大切な人を守りたい。 そう言って笑った彼に、自分と同じ鉄は踏ませたくないな・・・と僕は思った。 こんなに優しい笑顔で笑う男を、僕は初めて見たから。 「明日から、僕もケイオスもジギィさんの研究者に入ります。よろしくお願いします」 明るい声。 この笑顔が消えなければいい。 この地獄の様な場所で。 笑顔を奪われた仲間なら、沢山目にしたから。 だから・・・笑顔が消えなければいい・・・と、僕は切に願うのだったーーーーーーーーー・・・ *********** 「ジギィさん、この細胞の分裂の事で・・・・・・って、どうしたんですか?ニヤニヤして」 分厚い資料の山を手に掴みながら、首を傾げるスリナムに、ジギィは苦笑した。 「先日、娘が会いに来てくれましてね」 「へぇ!!ジギィさんの娘さんかぁ。今おいくつなんですか?」 「今年で20になります。あの年頃は、成長が早いものですよ」 だが娘は変わらず笑顔で自分の事を“父さん”と呼んでくれて。 それがたまらない程に嬉しかったんです・・・と、ジギィははにかんだ。 「早く実験が終わって、娘と一緒に暮らしたい」 淋しい思いばかりさせているから。
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!

817人が本棚に入れています
本棚に追加