Vol.1

8/22
前へ
/370ページ
次へ
  あの日もあったかい、気持ちいい日だったなぁ……。 ここの桜、本当にキレイだったなぁ。 もうほとんど開かない瞼の裏に、あの春の入学式の映像が蘇ってくる。 そういえば……向くんを初めて見たのも……あの時だった、な……。  * * * * 「──…さんっ」 うぅ~ん……? 「──うさんっ」 「うぅ~~…?」 「伊藤さん!」 「はい────ッ!?」 誰かに名前を呼ばれて、柚乃はビクーッ!と痙攣し、とてつもない勢いで起き上がった。 ゴンッ!! 「あう!」 「痛ッ!」 勢いよく机から飛び上がると、脳天が何かに激突した。 と、同時に、自分以外の誰かの声。 柚乃も痛かったが、相手もかなり痛そうだった。 「~~~~……?」 目に涙をいっぱい溜め、両手で頭を押さえて、柚乃はその人物を見上げた。 「……………」 途端に沈黙する。 「あいてて……起きた?」 片目を閉じて、痛そうに顎をさすっている男子。    ムカイ 「む…向くん……」 「あ、ははっ……はい」 柚乃がポロリと彼の名前をこぼすと、 ムカイ セイト 向 星人はニッコリと笑って、片手を軽く上げた。  
/370ページ

最初のコメントを投稿しよう!

315人が本棚に入れています
本棚に追加