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あの日もあったかい、気持ちいい日だったなぁ……。
ここの桜、本当にキレイだったなぁ。
もうほとんど開かない瞼の裏に、あの春の入学式の映像が蘇ってくる。
そういえば……向くんを初めて見たのも……あの時だった、な……。
* * * *
「──…さんっ」
うぅ~ん……?
「──うさんっ」
「うぅ~~…?」
「伊藤さん!」
「はい────ッ!?」
誰かに名前を呼ばれて、柚乃はビクーッ!と痙攣し、とてつもない勢いで起き上がった。
ゴンッ!!
「あう!」
「痛ッ!」
勢いよく机から飛び上がると、脳天が何かに激突した。
と、同時に、自分以外の誰かの声。
柚乃も痛かったが、相手もかなり痛そうだった。
「~~~~……?」
目に涙をいっぱい溜め、両手で頭を押さえて、柚乃はその人物を見上げた。
「……………」
途端に沈黙する。
「あいてて……起きた?」
片目を閉じて、痛そうに顎をさすっている男子。
ムカイ
「む…向くん……」
「あ、ははっ……はい」
柚乃がポロリと彼の名前をこぼすと、
ムカイ セイト
向 星人はニッコリと笑って、片手を軽く上げた。
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