Vol.1

9/22
前へ
/370ページ
次へ
  「はへっ!?」 瞬間、何がどうなったのかサッパリ理解できず、柚乃はキョロキョロと挙動不振に辺りを見回した。 「あれ!?みんなは?あれっ?」 教室内をぐるりと見渡すと、そこはもぬけの空だった。 「多分、みんなもう授業に行ったと思うけど…… 次の古典、図書室で百人一首調べるって話になったらしいから、移動したんじゃないかな?」 気の毒そうにそう言われて、柚乃は「えぇ!?」と彼に向き直った。 「え!マジで!?」 「うん」 「えぇ~、聞いてないよぉ……」 「だよね。オレも実は行きそこねちゃって……」 「そうなの?」 「うん。昼メシ違うとこで取ってたら、うっかり寝ちゃっててさぁ。 放送してたのは聞いてたから知ってたんだけど……もう今さらなぁ、と思って」 はにかんだように「あははっ」と笑い、向はポリポリと頭を掻いた。 その様子があまりにも爽やかで、柚乃も思わず顔がゆるんだ。 「あははっ。ダメじゃあん」 そういえば、向とちゃんと話すのは、これが初めてだ。 彼は、校内でも1、2を争うモテモテ君だし、特に関わりのない人であった。  
/370ページ

最初のコメントを投稿しよう!

315人が本棚に入れています
本棚に追加