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「伊藤さん。座んなよ」
口を猫のように緩め、向は机をチョイチョイと指さす。
「あっ、はいっ……」
柚乃はこの時、まだ立ったまんまだったので、急いで椅子に座った。
うわっ……!
椅子に座ると、机に肘をついた向との距離がほとんどない。
近い近い近い───ッ!
少しだけ顔を赤くさせ、柚乃はさりげなく椅子を下げた。
「あーっ、伊藤さん、何か引いたぁ!」
向が冗談っぽく笑って、柚乃に言う。
「えっ!違うよ、違うよ、誤解だよ!」
「ほぉんとぉー?オレの事キライなんじゃないのー?」
わざとらしく言って、向はこれまた笑顔を作った。
「そぉんなわけないじゃん!」
「そうかなぁー?」
「そうだよ!あっ!
てか向くん、顎 大丈夫だった?痛かったでしょ?」
柚乃は、話題を変えたいのと、本当に思い出したのとで、いきなり話を変えてみる。
彼は、いきなりの話題の転換に少し虚を突かれていたが、
「あぁー、ここ。うん、全然 大丈夫。心配なし」
と答えて、親指と人差し指で輪を作って、「オッケー」と表現した。
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