Vol.1

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  「伊藤さん。座んなよ」 口を猫のように緩め、向は机をチョイチョイと指さす。 「あっ、はいっ……」 柚乃はこの時、まだ立ったまんまだったので、急いで椅子に座った。  うわっ……! 椅子に座ると、机に肘をついた向との距離がほとんどない。 近い近い近い───ッ! 少しだけ顔を赤くさせ、柚乃はさりげなく椅子を下げた。 「あーっ、伊藤さん、何か引いたぁ!」 向が冗談っぽく笑って、柚乃に言う。 「えっ!違うよ、違うよ、誤解だよ!」 「ほぉんとぉー?オレの事キライなんじゃないのー?」 わざとらしく言って、向はこれまた笑顔を作った。 「そぉんなわけないじゃん!」 「そうかなぁー?」 「そうだよ!あっ! てか向くん、顎 大丈夫だった?痛かったでしょ?」 柚乃は、話題を変えたいのと、本当に思い出したのとで、いきなり話を変えてみる。 彼は、いきなりの話題の転換に少し虚を突かれていたが、 「あぁー、ここ。うん、全然 大丈夫。心配なし」 と答えて、親指と人差し指で輪を作って、「オッケー」と表現した。  
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