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柚乃が、あの場所に座って桜に心奪われている間、彼もそうして座っていたのだろうか。
いや。あまりの陽気に眠ってしまっていたのかもしれない。
立ち上がって、派手な女生徒の元へ向かう彼は、背中を丸めて欠伸を隠していた。
黒いけれど、陽に当たると少し茶色くなる髪。
他の男子生徒と同じ、普通の黒い学ラン。
しかしそれを、彼は異様にキレイに着こなしていた。
「決して崩してるわけじゃないのに……
すごいな。プロだな、あの人」
腕組みをして、柚乃は「ふむふむ」と感心していた。
そんな事を一人言っていると、グイッ!と腕を引かれる。
「!?」
見てみると、同じクラスになった女生徒が立っていた。
「何してんの、柚乃ちゃん!
もう入学式始まるよっ?」
少し呆れ気味な表情で、
マナベ ヤヨイ
真鍋 弥生は彼女に言った。
「あぁ、ごめん、ごめん、弥生ちゃん。もう行くよ」
柚乃はヘラッとした笑顔を作り、弥生と共に渡りローカを歩いていった。
歩いている途中、あの焦げ茶の彼に少し視線を向けた。
彼は、それはそれは爽やかな笑顔で、隣の女生徒に微笑んでいた。
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