Vol.0

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  柚乃が、あの場所に座って桜に心奪われている間、彼もそうして座っていたのだろうか。 いや。あまりの陽気に眠ってしまっていたのかもしれない。 立ち上がって、派手な女生徒の元へ向かう彼は、背中を丸めて欠伸を隠していた。 黒いけれど、陽に当たると少し茶色くなる髪。 他の男子生徒と同じ、普通の黒い学ラン。 しかしそれを、彼は異様にキレイに着こなしていた。 「決して崩してるわけじゃないのに…… すごいな。プロだな、あの人」 腕組みをして、柚乃は「ふむふむ」と感心していた。 そんな事を一人言っていると、グイッ!と腕を引かれる。 「!?」 見てみると、同じクラスになった女生徒が立っていた。 「何してんの、柚乃ちゃん! もう入学式始まるよっ?」 少し呆れ気味な表情で、 マナベ ヤヨイ 真鍋 弥生は彼女に言った。 「あぁ、ごめん、ごめん、弥生ちゃん。もう行くよ」 柚乃はヘラッとした笑顔を作り、弥生と共に渡りローカを歩いていった。 歩いている途中、あの焦げ茶の彼に少し視線を向けた。 彼は、それはそれは爽やかな笑顔で、隣の女生徒に微笑んでいた。  
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