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三人が掃除を終わらせたのは、それから二時間後の事だった。
軍付属の高校の一室。といっても一般的な体育館ほどの広さにダイブポッドが20基ほど置かれた部屋。掃除をすると言っても一筋縄ではいかない。
疲れた表情で部屋から出てくる有里と翔太に続いて、脇腹を押さえながら歩く葵の姿。
「葵、大丈夫か?」
笑いを堪えて翔太が言う。
対する葵は、返事もままならないようだった。
「避けようとするから変なとこに当たるのよ」
葵に大打撃を与えた張本人は、何食わぬ顔で呟く。
この小さな身体から、何をどうすればあんな力が出て来るのか聞きたかったが、それを聞けるような状況でもなかった。
「……あれを避けようとするなっていうのが無理な話だ。だいたいガゼルパンチなんて、どこで覚えたんだよ……」
虫の息とはこのことだろうか。葵は少し話すたびに苦痛に顔を歪める。
「とにかく、これに懲りたらまじめに訓練をやってよね」
「……わかった」
言われなくても。等と考えたが、今下手に刺激してしまうと、次は命が危うい。
そう思った葵は、口を噤んで歩き続けた。
──帰り道──
その後、校門を出た三人。有里だけは家の方向が逆だったので、葵と翔太は二人家路を行く。
「なぁ、昨日の話聞いたか?」
おもむろに翔太が口を開いた。
突然の話しの切り出しに、葵は一瞬の間を置いて翔太の方を向く。
小学生の頃からずっと同じ道を歩んできた幼なじみというか腐れ縁の仲で、こうやって二人で歩いていると、いつも翔太の方から話しかけてくる。
「ソルの暴走だろ? これから入隊しようっていう若者には辛い話だよな」
葵は渋った顔で返事をする。
ワックスで整えたミディアムの茶色い髪をいじりながら、夕闇がかった空を見やる。
溜め息を吐きたい気持ちだったが、吐いた分幸せが逃げるという迷信が頭を過ぎり、それを止めた。
「ああ。それにあと一ヶ月で入隊って考えると、なんか実感湧かないよな」
やるせない表情で呟く翔太。
成り行きでこの学校に進むしかなかった彼にとって、死という言葉はあまりに現実的な言葉ではなかったのだ。
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