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闇に閉ざされた空間の中、音もなく動くものがあった。
いや、全くの無音というわけではない。“限りなく無音に近い”状態を作り出し、人型のそれはさらに動き続ける。
一瞬の油断が命取り。という事を念頭に置き、慎重に慎重を重ねて足を進めていた。
一歩踏み出すごとに、各関節に取り付けられたモーターが僅かな駆動音を上げる。
「消音率77%で安定しました。以降、索敵を最優先項目に切り替えます」
コックピットの暗がりの中、少女の声が響き渡る。
妙に落ち着いた物言いが、さらに緊張感を高めた。
「まったく、いくら精巧に作られたプログラムだからって駆動音まで再現する必要があるのか」
「それは仕方ありませんよ。FRP及び仮想空間内おける戦闘は、単なる兵器や争いとしてだけではなく、愛国心を助長させるためのショーとしての役割を持たせてあるんですから。全くの無音でリアリティの欠片もなければ、誰もこれらの戦闘を応援したいなどと言う気持ちには──」
「わかったわかった。そのすばらしい愛国なんたらのおかげで面倒な演習を組まされるんだからな。たまったもんじゃない」
ぶつけようのない不満を漏らす男の声。対して答えた少女は事細かに説明をするが、今の状況でそんな事を言われても男にとってはストレスの元にしかならなかった。
「ライラ」
「はい」
大きめのゴーグルをつけた男がその名を呼ぶと、ライラは短い返事で答える。
「今回は少し戦法を変えるぞ。隠密はもう飽きた」
男はそう言い終えると、口元を僅かに弛ませる。
目元はゴーグルが邪魔をしてその様子を窺い知る事は出来ない。
「葵様、それは──」
ライラが口を挟もうとするが、主人である葵はそれを許さなかった。
「サイレンサーをオフにしろ。アクティブソナーを最大で起動と同時に、FWレベルをゼロにしてアサルトをかける」
「装甲を無くしてスピードを上げるのは分かりますけど、被弾したら一撃ですよ?」
ライラの声を無視して、葵はFRPの足を止める。そしてそのままクラウチングスタートの姿勢をとった。
「……どうなっても知りませんからね」
呆れた声で呟くライラ。葵は、構わないといった様子で軽く頷いてみせた。
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