第1話:事の発端

3/10
37人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ
「サイレンサーオフ。FWレベルをゼロに設定。優先項目を索敵から運動性に切り替えます」 「いくぞ……!」  掛け声と同時にFRPの背部に備え付けられたブースターから光が漏れ始める。  次の瞬間、爆発したように加速する銀と紫色の機体。  今までいた場所には、FRPの蹴り足によって出来た窪みだけが残されていた。  コックピットのモニターに映る演習用に作られた廃墟たちが、半ば残像のように流れてゆく。  凄まじい速度の中、周囲を警戒しながら葵はライラの報告を待った。 「……ソナーに反応。四時の方向に機影を確認しました。FRP〈雷〉(いかづち)赤間機です」 「了解」  ライラの声に反応して葵は右腕を地面に突き立てると、ブレーキと回転軸のように応用して方向を変える。  その流れに迷いはなく、すぐさまライラの言った方へと疾走を始めた。  とその時、進行方向から光り輝く弾が飛んでくる。  サイレンサーを解除して爆走した事により、相手に気付かれたのだろう。 「訓練用カノン砲、弾は模擬弾です」  分析を終えたライラが報告してくる。 「当たらねぇよ」  冷静に弾道を見極め、連続して飛来する砲弾を葵は紙一重でかわしていく。  一発、また一発と回避していると、ピタリと砲撃が止まる。  諦めたのかとも考えたが、そんな相手ではない事を思い出した。 「多数の熱源を確認。小型のミサイルです」  ライラが言い終える前に、葵の視界に十機を越える光点が映った。 「接近戦なら勝てると思ったのか?」  通信機から聞こえたのは、葵でもライラでもない男の声。 「翔太か。悪いけど今回は引き分けはなしだ」  これまでの戦績、十七戦全てが引き分け。いい加減白黒付けたくなるのは自然の通りだった。  葵は通信相手である翔太に自分の勝利を予告する。 「はっ! それはこっちのセリフだ!」  翔太は吐き捨てるように言い放つ。  互いをライバルと認めるからこそ、この勝負は負けられないのだ。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!