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葵は咄嗟に左へと跳躍してみせると、脇にあった廃墟のビルを蹴って飛び上がり、左側の腰と脚部のバーニアを点火して機体を回転させる。
右側に一回転し終えたところに再び廃墟のビルが重なると、再びそれを蹴り三角飛びの容量でミサイルを回避していった。
「やるじゃねぇか」
ことごとく攻撃を避けられる翔太だったが、通信機から聞こえる声はまだ余裕を感じさせる。
「そんなに悠長な事言ってていいのか? 捉えたぞ!」
暗視カメラのモニターに映ったのは銀のフレームに黒い装甲をつけた翔太のFRP。
砲撃用にプログラムされたそれは、〈焔〉よりも一回り大きい。
左右の手には長めの銃火器が握られている。
「左右側の武器は恐らくショットガンです。不用意な接近は避けてください」
ライラの忠告が葵の耳に入る。
返事をしたいところだったが、今翔太から注意を逸らすわけにはいかない。葵はその言葉を聞き流すと、FRPを僅かに右側へと走らせる。
さすがにショットガンを持った相手に正面から突っ込むというのは分が悪い。
廃墟を盾にしながら、少しずつ距離を縮めてく。
「考えが甘いんだよ!」
翔太の叫ぶ声が通信機から響き渡る。
葵がその声に返事をする前に異変は起こった。
盾にする為に飛び込もうとした廃墟ビルが、爆音を上げながら倒壊したのだ。
「スラッグショットです」
爆音に紛れて、ライラの冷静な声がやけに響く。
葵は苦悶の表情を浮かべて次の行動を考える。時間にして一秒に満たないその刹那、思いついたように進路を左へと取る。
その先には翔太がいた。
「危険です! 葵様、無茶はいけません!」
止めようとするライラの声を無視して、葵は翔太と対峙する。
すると当然の如く、翔太はショットガンを葵のFRPへと向けた。
「終わりだぁ!」
勝利を確信したような翔太の叫び。
まさに雌雄を決する激突の瞬間。葵の視界は突然の暗闇に包まれた。
「な、何だ?」
視界だけではない、五感全てがフェードアウトするような感覚。
そして、再び浮き上がってくるソファに座ったような感覚。
ふと気がつくとそこは、仮想空間にダイブする為のポッド内だった。
「……強制終了か?」
わけもわからないまま、頭につけた大きめのゴーグルを取り外すと、葵は渋々外へと歩み出た。
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