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家族が軍人という二世か、他の仕事に就きたくてもその為の勉強をする費用を賄えない人間が、主に入隊の対象だった。
無論、この二人は後者。
葵にいたっては両親すらいない。
「仮想空間にダイブした瞬間に、ソルにやられたりしてな」
葵が皮肉めいて呟く。
今回の“ソル暴走事件”による大量死は、世界規模のニュースになるほど衝撃的な事件だった。
一級戦艦一隻につき、FRPパイロットを含めて約三百名の乗組員がいる。その全てが“殺された”のである。
時間にして数分。合わせて九百名の隊員が死亡した。
「冗談はやめろよ。マジで笑えねぇ」
翔太は肩を落としながら言う。
出来る事なら、今すぐ入隊希望を取り消したいというのが本音だった。
帰り道で翔太と別れ、葵は一人家路を行く。
橙と紫が入り混じる空を見つめて、止める様子もなく溜め息を吐いた。
「確かに笑えねぇよな……」
誰も聞いていないとわかっていながらも、葵は愚痴をこぼす。
いや、誰も聴いていないと言うのは誤りだった。
「そんなに暗い顔してると、幸せが逃げちゃいますよ?」
不意に聞こえたのはライラの声。
葵はその声を気に留める様子もなく歩き続ける。
「ちょっと葵様、私の話聞いてますか?」
ライラが呼び続けるのを無視したまま、葵は視界の片隅に映った建物に足を向ける。
今日までの二年と十ヶ月。何度も往復した道だった。
校舎から二番目に近い寮。一番近い寮は、申し込みが間に合わなかったのである。
手馴れた様子で玄関脇にある機械にカードキーを通すと、ロック状態を示す赤いランプが緑色に変わりドアがスライドした。
「……葵のバーカ」
散々葵を呼び続けたのに無視されてしまったライラは、痺れを切らして悪態を吐く。
「今日、おやつ抜きな」
ポツリと呟く葵。
「えっ! 嘘ですよ? 葵様の事をバカだなんてそんな……ダメ?」
慌てて訂正するライラ。
「ライラ」
「はい」
ライラは畏(かしこ)まって返事をする。
「……調子が良過ぎる。ダメだ」
エレベータを上がり、八階に着く。降りてすぐ正面の部屋が葵の家だった。
同じく手馴れた様子でカードキーを通し、部屋へと入った。
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