二話

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何故わかるのだろうか。それとも、自分がわかりやす過ぎて、実は皆知っている事なのだろうか。 (こんな気持ち悪い事、誰にも知られたくないのに) 途端に自分が恥ずかしく思われ、今この場で手を付いて懺悔したい衝動に襲われた。 だが、何も知らないだろう先生に突然懺悔をして許しを乞う自分の姿を思うと、滑稽でしかなかった。 「先生、」 「はい」 先生の声はとても落ち着いていた。 聖人のようだ、とどこか思う。 「人を好きになった事、ある?」 「人以外は好きになったことがないわ」 「…当たり前だよ」 先生はそこでまた楽しそうに声を立てて笑った。 「好きになるのが辛いと思った事は?」 「もちろんあるわ」 「…じゃあ、」 同性を好きになった事は?─── 言えるわけない、と自嘲した。 「─結婚したいと思える人は、いる?」 「いたこともあるわ」 話題をすり替える自分が、恥ずかしい。 聖人の言葉も、どこか空咳のように白々しく聞こえた。
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