三話

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春馬の脱走は、逃げかけ、で終わった。 「おい、」 逃げるな、と言わんばかりに肩を掴まれる。 びくり、と体が跳ねた気がする。 春馬の頭はもう、何も考えられなかった。ただ顔だけは背けていた。 手から背中から全身から、変な汗が噴き出す。 「…大丈夫なのか?」 「だいじょぶ、です」 それだけ言葉を紡いだ。 しん、と沈黙が流れる。 気まずい沈黙だった。 思い通りに出来ず唇を噛み締めた。 とても、もどかしい。 (好きなのに…) 寧ろ、好きだから。 好きだから顔を合わせられない。 好きだから、こんな気持ちの悪い自分を知って欲しくない。 嫌われてもいい。 片想いでも何でもいい。 見つめているだけでいい。 見つめているだけで自分の頬は赤らみ、心は苦しいような心地いいような感情で満たされるから。 見つめているだけならば、こんな辛い思いしなくていいから。
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