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何か言葉を発しようとしても、何も出てこない。
自分はこの顔を、確実にどこかで見たことがあるのに、何も思い出せない。
この男を前にすると、上手く思考が回転しない自分を感じた。
手を握り続けていたことにようやく気付いて、弾かれたように手を離す。
「あ、いや、あの、大丈夫ですから!」
慌てて立ち上がった。
男はまだ不思議そうな顔でこちらを見ている。
見られると、息が苦しくなった。
「大丈夫ならいいけど…。ほんとに、ごめんね」
男は軽く頭を下げて、そのまま通り過ぎていった。
春馬は暫くそこから動けなくて、不可解な胸を鷲掴む。
心臓は、早鐘を打ったようだった。
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