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先を急ぐ二人の若者が居た。
二人は潘の命を受けて江戸で医学を修得し、この度晴れて免許皆伝となり、帰国の途についたのであった。
凱旋である。
そんな二人は早る気持ちを抑えきれずに脚を早めるのであった。
二人は国境の街に着いた。
この山の向こう側は見馴れた風景が広がるであろう、故郷の城下街がある。
明日中には峠を越えて故郷に帰る事ができるに違いない。
二人は宿に入り、様々な想いを馳せながら眠りについた。
宿の主人がもう一泊しろという。井戸の釣瓶がどうしたとかで、嵐が来るという。
太陽が眩しい。
西洋医学を学んだ二人は迷信めいた話で歩みを止める事は無かった。
夜には数年振りの故郷だ。
二人は宿を後にした。
汗ばむ陽気の中、長旅の疲れをものともせずに二人は峠を進んだ。
帰宅を喜ぶ家族の顔、城へ出向いて歓迎される様が思い浮かび、自然と足が早まる。
既に、事を成し遂げた充足感が身体を支配し始めていた。
轟音が響いた。
何の事か理解出来ぬ間に視界が白くなり、そして暗くなった。
いつの間にか空など見えなくなっていた。
木の葉の様に身体が揺らされている。
殴られる様に顔が痛い。
そして時折白く視界を奪われる。
嵐だ。
二人は飛ばされぬように身を屈め、手に手を取って這いつくばった。
視界が白くなる瞬間、小船の先程の所に大きな黒い物が写った。
二人は抱き合う様にして這って行き、そこへ身を寄せた。
どれ程過ぎた事だろう。
力を入れ過ぎて全身が強張っていた。意識を失った訳でもないのに五感を奪われた如く時間の観念を喪失していた。
身を寄せていたのは黒く今にも崩れそうな大岩だったようだ。
..そして空が蒼く染まっていた。
戻るか、進むか。
何れにしても漆黒の闇が訪れるであろう。夜盗から目立たぬ夜露をしのげる場所を見つけ、野宿をするか。
二人は足元が見える間に寝場所を見つける事に決め、峠を登る方に賭けた。
視界は危険な程暗くなってきた。そろそろ妥協できる場所を確保せざるを得まい。
二人は街道を少し外れた獣道に入り、寝場所を物色した。
ふと、小枝や小石を除けていた一人が斜面の下を指指す。
明かりが見える、と。
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