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 もう、会えません。  女が唐突にそう告げたのは、祖父が傘を立派なものに新調した日であった。  最初は冗談だと思った。しかし、女の震える声と、滑らかな頬を伝う雨水ではない滴が、冗談ではないと言っていた。  祖父は傘を放り出し、どうしてだと問詰めた。  女は俯くだけであったが、祖父が「俺が嫌いか」と言った途端に顔を上げ、違いますと叫んだ。 「出来る事なら、私もずっとここに居たい」  ならば何故、と聞く祖父の前、女は地面に付して泣いた。 「最近、雨が続くでしょう」  泣きながら言った。  そして、ぽつぽつと、初めて自らの話をした。
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