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昔、女が生まれ育った土地が、酷い長雨に襲われた。
作物は腐り土は緩み、山が崩れて、沢山のものが死んだ。女はその時、両親と兄弟を失い、親交のあった土地の長の家に身を寄せた。
やがて不作から飢饉となった。長の家とて例外ではなく、お前がいるから蓄えを無駄に使う、と陰口を叩かれ、女は肩身の狭い思いをしていた。飢えて死ぬ者も毎日出た。
やがて、人柱を立てる話が持ち上がり、身寄りの無い女に白羽の矢が立った。女は泣いたが庇う者も無く、縄で手足を縛られて、氾濫する川に落とされた。
ああ、私は死ぬのだ。
女は、そう覚悟して目を閉じた。
しかし、いつまで経っても死なない。それどころか、苦しくもない。恐る恐る目を開くと、水の中でも陸のように目が利く。呼吸も出来る。驚いているうちに水流で縄が緩み、解けた。
最初は、戻ろうと思った。
しかし、戻って何になる。人柱として死んだ筈の者が戻っても、温かい迎えなど無いだろう。身寄りも無い。またあの家で、陰口を言われながら過ごすのも嫌だった。
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