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 そうして、祖父と女の逢引が始まった。しばし水面を覗いて待つと、必ず女は池から出て来た。毎回、まだ死のうとしていますか、と聞かれ、それを否定するのが挨拶代わりになった。最初は心配そうに聞く女も、回数を重ねるにつれ、冗談口調になった。  それまで母以外の女とまともに口を利いた事の無い祖父であったが、どもっても、言い違えても、池の女は真剣に話を聞いて返してくれた。他に話し相手などいない祖父の中、女に会うのは非常な楽しみとなっていった。それだけを楽しみに、生きる様になった。  そんな祖父を、女は「おかしな人」と称したという。今まで自分を見た人間は、化け物でも見たかのような反応しかしなかった、と。  祖父は、そんな事は露程も思わなかった。愛しいとは想っても、怖いとは感じない。そう告げると、女は赤面して笑った。  女と会う様になり、祖父は初めて、装飾品を扱う店へ行った。その日は雨であったが、足取りは軽かった。小さな珊瑚の付いた飾りを買い、女に贈ると大層喜ばれた。それから女はいつも、その飾りを着けて会いに来た。男性からものを贈られたのは初めてと言われ、祖父が思わず 「美しいのに」  と口走ると、女は手で顔を覆い、ご冗談! と小さく叫んだ。その様がまた愛しくて、出来ればずっと共にありたい、と祖父は思ったという。風の日は着込み、雨の日は傘をさし。女との逢引は長く続いた。
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