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『藍』
海は、藍色の絵の具を溶かしたのだと思っていた。
だから、竜の色も、藍色なのだと思っていた。
「え?」
貴方はそうやって、不思議そうに首を傾げて。持って来た本をベッドの側の棚に置くと、花瓶の花を替えながら、家の話をし出す。
そんなの私、聞きたくない。
「海に千年、山に千年住んだ蛇は、竜になるのよ」
だから竜は藍色だと思っていたの。
なんて言ったら、貴方は竜なんていないと言う。
だって誰も見たこと無いのだから、と。
それならば、きっと山もないのだわ、と私は心の内で呟いた。
犬も猫も、家も車も無い。
私は、この白い部屋と、藍色の海と、鳥と、貴方しかみたことが無いのだから。
窓の外の、決して届かない藍色に、私はずっと憬れていた。
「 !」
上から貴方が私を呼ぶ声が落ちて来る。
それに負けないくらいの速さで私は宙を切り。
「さよなら、母さん」
濁音とともに藍色に私は包まれた。
藍色の世界は温かくて。
白色の世界では病弱な少女でしかなかった私も、ここでは病に苦しめられることなどないということがわかった。
きらきらとした藍色に染められて。
千年経ったら山に行こう。
藍色の、次の世界へ。
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