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病棟に戻った隆成は、真っ直ぐ病室へ向かい亜基の姿を探す。しかし先程まで亜基がいたベッドは案の定裳抜けの殼で、その上ベッドの上に彼女の荷物がまとめて置いてある事以外は人がいた痕跡すらなかった。
「あら、隆成くん?」
「あ、お義理母さん」
久しぶりに会ったとは言え今日の義母は何処か元気がないような気がする
「早かったのね」
「夜行で、来たので…」
「あら、まぁ、それは疲れたでしょう?」
「えぇ…。あの、それより亜基は…」
「まだ…聞いてなかったのね」
義母の顔に影がさす。
「え?」
「難産でね…子どもは、なんとか無事に生まれたんだけど、亜基はっ…亜基は駄目だったの」
「そん…な…まさか?」
ハンカチで目尻を押さえる義母の隣りで、隆成は頭が真っ白になり、唯立ち尽くすだけだった。
「さっき、亜基に逢ったんです」
新生児室に移動した隆成は、ガラス越しに我が子を見つめ、そっと口を開いた。
「え?」
「一緒に外歩いて、付き合った頃の話とかして…最後に"あの子の事宜しくね?"って言って…振り向いたら…いなくなってて」
「別れを告げないのはあの子らしいわね…」
「えぇ。正直まだ信じられません。この子はこんなに元気なのに」
「本当よねぇ。この子は、亜基が命がけで守った宝物もの。私に出来る事があるならなんでも手伝うわ。だから…貴方の手で育ててやって」
「勿論ですっ…!」
隆成は堪え切れずにその場に崩れ落ちる。
「ごめんな…。約束、明日からでもいいだろ?今日…っ今日だけは、泣かせてくれよ」
唯、涙を流す事しか出来なかった。溢れる感情を言葉に出来ず、嗚咽を噛み殺そうとする度に吐き気に襲われた。不安、絶望、後悔、自分の不甲斐なさ、亜基への想い。いろんな思いに押し潰されそうになった。
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