始まりの夜

6/7
前へ
/41ページ
次へ
「夜、だけ?」   期待外れであったのか、少し落ち込んだようだ。   「そう。夜だけなんだ。けど、忘れないで」   常に保つ笑顔と共に天使が、その真っ白でいて大きな翼と、暖かな腕でその子を包み込む。   「僕たちは、いつも君を見てるから」   包み込まれた子は、心地よさそうに瞼を閉じる。   それを見て、悪魔の口元がわずかにゆるんだ。   悪魔が始めて笑ったのである。   「そろそろ時間だ」   悪魔が天使に声をかけた。   「そうだね……今日は、おしまい。また明日ね」   天使がやんわりと体を離す。   その子は名残惜しいのか、天使に手を伸ばした。   天使は手を制し、その子の頭をふわりと撫でる。   「また明日」   そして、もう一度言う。   悪魔が窓から出たのに続き、天使も窓から出て行く。   二人は振り返ることなく、夜闇の中へ羽ばたいて行った。   それを、その子は見えなくなるまで見送っていた。
/41ページ

最初のコメントを投稿しよう!

13人が本棚に入れています
本棚に追加