ボトル

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 海に日が落ちる。辺りは既に薄闇。空の支配権が太陽から月に移る時間。  薄闇の広がる海を眺めてたら、あること思い出した。  どこかの地方では、海の向こうには死者の国があって、ヒトはみな海から生まれ、そして海へと帰っていくのだという。  だとしたら、僕がこれからやろうとしていることにも多少の意味ができてくるのかもしれない。  来たときから持っていた、今日の目的である小瓶を眺める。中には、筒状に丸めた手紙。  あまりにも彼女との想い出はつらすぎて、忘れたかった。  でも、僕はまだあの頃の彼女に伝えてないことがあったから、忘れられなかった。  だからずっと待っていたんだ。彼女があの頃に戻ってくれること。  僕はもう疲れてしまった。待つことにも、独りでいることにも。  海へ近づく。静かな浜辺に、波の音だけが響いていた。  波にそっと小瓶を浮かべる。  あの頃の彼女に届けばいい。  願いながら、手をはなす。  小瓶は波に呑まれて離れていった。  僕の想いは離れていった。 『ありがとう。あの頃の君。  そしてさよなら。もう変わってしまった君』 伝えたよ。忘れるよ。 僕は二人を忘れるから。 二人を忘れて、一人で生きるよ だから、今までありがとう。  僕の頬を、涙が伝った。  
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