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剣一はグッと拳を握りしめ、佐織の方を向いた。
佐織は泣きすがる藍の隣で膝をついていた。
「お兄ちゃん、ゴメンね。なんでかな? どうしても涙が出ないの。お兄ちゃんのこと大好きなのに……」
「佐織……」
「でも心配しちゃイヤよ? だってお兄ちゃん、わたしが心配したら絶対駆けつけに来ちゃうもん」
フワッと自然に目の端に涙がたまった剣一は、佐織を後ろからそっと抱きしめようとした。
しかし、スッと彼女の体をすり抜け反対側に出てしまう。
「佐織、ゴメンな……。兄ちゃんもうおまえを抱きしめることもできなくなっちまった。ダメな兄貴でゴメン。ゴメンなぁ、佐織……」
「ケンイチさん……」
アクアは泣き崩れる剣一の肩にそっと手を置いた。そして剣一が佐織にしようとしたように、後ろからそっと抱きしめた。
「ケンイチさん、未練を残してはダメ……。そうしたらわたし、あなたの魂を壊さなきゃいけなくなっちゃう。そんなのイヤです」
剣一はそんなアクアから離れた。
「触るな! オレだって……オレだって未練残したくねぇよ! でも! でも無理だ……大きすぎる、あまりにも残すものが大きすぎるんだよ……」
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