田舎暮らし

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「明美、お客さんよ」 明美の母親の明るい声が玄関の方から聞こえてきた。こんな田舎に住んでいる、しかも自分に会いに来る客といえば…。明美はすぐに来た客が誰なのかピンときた。 「はやく来なさい。お待たせしたら悪いわよ」 きっと未希たちに違いない。そう思うと明美も嬉しくなって返事をした。 「は~い、今行く!」    明美は小学校6年の5月まで町の学校へ通っていた。そしてちょうど5月の修学旅行が終わった後、田舎へ引っ越すことになったのである。本当なら明美の母親は、明美が6年生になる前の春休みに引っ越したかったのだが、今度明美が通う田舎の小学校では修学旅行が5年生ですでに終わっているとのこと。それなら町の学校の友達との最後の思い出作りもかねて、引越しを修学旅行が終わるまで伸ばすことにしたのである。    明美には父親がいなかった。画家をしていた父親は、明美が幼稚園生の頃交通事故で亡くなっていた。小さい頃から父親の絵を描く姿を見ていた明美にとって幼いながらにも父は誇りであり、いつしか明美は父親と同じ画家を目指すようになっていた。    母親は夫が死んでから、ずっと実家のある田舎への引越しを考えていた。田舎から嫁いできた母親にとっては、夫がいなくなった町はいる理由がなかったからである。しかし生活に追われ、結局引越しがこの時期に伸びてしまったのである。
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