なんて嫌な青春だ

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   黒板に書かれる文字はこちらの都合を考えない。僕の前に座るイイツカはバカみたいに背が高い。190あるクラノよりも頭一つ分高いのだ。そんなやつが身長は平均を辿る僕の前にいる。黒板を写さなければならない僕は体を横へ動かして、その塔から覗きこむしかない。そうこう言っている間に写している途中だった内容は消されていた。 「そんな顔しないと」  イイツカがぼそりと言った。上体を僅かばかりこちらに向けたイイツカが後でノートを見せると言った。僕の机に置かれた肘から先をなんとなく目で辿れば手首の包帯が目に付く。イイツカの両手首に巻かれた包帯はチョウチョ結びになっている。そんなことしたって可愛らしさのかけらもないというのに。 「ありがとう」  僕が述べる言葉は形式的な色しか含まない。その筈だ、笑って言う程の仲ではないから。それに僕はイイツカが好きではない。しかしそれはクラノのような、鋭いものではない。僕のイイツカに対する好きではない、は苦手意識だ。サネとの関係を無視しても苦手だと思うものは消えない。  それは何なのかと、もはや黒板を覗き見なくてもいい僕は思想の海に溺れることにした。
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