なんて嫌な青春だ

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   イイツカは差し当たりのない性格の筈だ。僕はそう思う。普段はオカヤマと二人で行動している。オカヤマと言えば前にクラノがツルんでいた相手だ。その頃のイイツカはどうだったろうか、記憶を探ろうとして失敗する。僕はその頃のイイツカを知らない。ついで言うならその頃の自分さえ分からない。記憶の風化とはこういうものなのかと溜め息をついた。僕が苦手とするイイツカはオカヤマと行動する今のイイツカらしい。シャープペンシルを動かす指からまた手首まで辿った。  リストカットをしている事実は誰もが知っている。それを感じさせない明るい声が持っているものを教科書に変え、立ち上がり載せられた文章を読む。そういえばと僕は脳内の僅かな部分が冷えるのを感じる。イイツカが憐憫を受け取る時の目を思い出した。サネたちと大富豪をしていて、僕がありがたくも大富豪になり暇を持て余している時だ。クラスの一人がイイツカに、そんなことは君のためにならない、と言っていた。僕の耳は小さな言葉に気付き、顔を向けて音を辿る。彼の名前はなんだったか。とにかく僕らと同じくトランプを手にしていたイイツカとオカヤマに向かって彼は自分を大切にと言った。確かオカヤマにも大変だろうとも。その言葉を受けたオカヤマの目は喜びを露にして持っていたトランプで口元を隠した。イイツカは、あの目はどうだったろうか。気をつけると言った言葉の目は。
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