なんて嫌な青春だ

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   的確な言葉が見つからないまま僕は海を泳ぐ。窓の外で荒々しく揺れる木はまるで別世界のようだ。ガラスで仕切られた世界、ということか。音が聞こえないだけで僕は揺れ動くものを僕がいる場所と同一に見れない。全ての感覚を持っているからこそ弱いのだ、僕は。  窓ガラスに僕が映る。  透明な教室が写し出されている。僕は視点をイイツカに変えた。透明なイイツカはやはり同じくノートをとっている。イイツカの手首で蝶々は揺れていた。 (冬場の暖房は真夏の熱より毒を孕んでいると思う)  むせ返る空気を吸い込んで夏を思い出す。包帯の取れたイイツカの手首は眉をしかめるものだったのかもしれない。皆が皆、傷口を心配していたと思う。イイツカはもう塞がっていると言った。その手首は捩じ切れた皮膚で覆われていたと思い至る。同情と嘲笑を受けるイイツカは伏せた目で自分の手首を見ていた。僕は遠くからその目を見ていたが、目が合った時の背筋を這い上がる感覚は嫌悪以外を与えなかった。じゃあ、あの時からか。僕の背筋を這い上がった嫌悪は頭の奥底で蟠り、イイツカに対する苦手意識を培ったのかもしれない。  チャイムと共に僕の意識は不鮮明な海からより現実へと引き戻される。差し出されたノートに再度礼を述べて僕はイイツカを見上げた。何もない目だった。
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