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其壱話
冬が終わった頃、晴れた空が気持ちよく、
暖かな日差しが射し始めていた。
スーツの上着がそろそろ暑く感じられる。
「こんにちわ」と近所のおばさんの声に顔を上げて会釈を返すと、
桜並木が綺麗に咲き始めたと、おばさんが嬉しそうに言った。
細い路地を曲がると、木の枝が伸びきって、
前の家の塀にまでかかり、葉っぱのトンネルとなっている。
それを潜り抜けると、町を見渡せる場所に着く。
この町に来て約三年が
過ぎようとしていた。
よく晴れて空に暖かい日が降り注ぐ。
シャツの袖を捲くり、手でパタパタと扇いだ。
今年は例年よりも早く暖かくなり、気温が高いと言う。
昭和二十頃、
三月中旬の事 ―――
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